フィリピンはとても家族志向の強い国と言われます。家族は常に助け合い、頼りにし合あう存在です。
フィリピン人は仕事を持つと、両親や学生の兄弟を金銭面でサポートすることが普通とされているようです。親の側もそれを期待しているのが一般的のようです。
近頃では「私たちのことは気にしないで自分のために使いなさい」と言ってくれる親も珍しくないそうですが、それでも仕事のある子供たちはサポートを続ける場合が多いです。
これにはもちろん、素直に家族を助けたいという気持ちもあります。ただ心のどこかではサポートしなければ周りの人たちに良い顔をされなかったり悪口を言われたりして、よい関係が保てなくなるといった心配が見え隠れしているように感じることがあります。
口には出さなくても、実際のところ半分「重荷」と感じている若い世代の人たちは多くなっているとも聞きます。公にも家族にも、素直な気持ちを伝えることははばかれるようですが、親しい友達の間では話題にのぼることもあるそうです。
これが田舎の方になると、もう少し保守的で「家族をサポートするのが好きです」と断言する人たちの割合が多い気がします。
家族の一員として、当然のように金銭面で期待される
フィリピンでは、長女や長男に一番の責任を課すことが普通です。(日本も伝統的には似ているかもしれませんね。)両親や兄弟に対して、彼らが援助をする責任が一番にあると思われています。
そして良くも悪くも彼ら自身が自分の役割にプライドを感じている部分があるようです。ただ実際のところは相当なプレッシャーがかかっていると思います。
また末っ子にも負担があります。フィリピンでは年下のきょうだいが大人になるまでは、上のきょうだいが金銭的にサポートする責任が課せられることが多いです。末っ子はこの責任は免れますが、その代わり両親の老後のお世話を一手に引き受ける立場になることがあります。実家を相続したりなどはできるようですが、両親とずっと一緒に生活し、介護し、看取るところまでが運命づけられているとしたら、それも大変なことだと個人的には思います。
フィリピンでは介護施設などの利用がとても敬遠されるらしいので、余計に大変なことだと思います。
ちょっと興味深かったのは、年下の異母兄弟や異父兄弟の扱いです。たとえ年長の子供でも、異母兄弟に対する援助をしなければいけないプレッシャーは、血のつながったきょうだいに対してよりも強くないのだそうです。
フィリピンの出稼ぎ労働者たちの苦悩
フィリピンは、海外への出稼ぎ労働者(OFW:オーバーシーズ・フィリピーノ・ワーカーズ)が多いことで有名です。特に、海外に出稼ぎに出ている娘や息子がいる家庭では、その子に負担がのしかかることがあるといいます。
もちろん、より良い生活を求めて海外へ働きに出る人たちもいますが、学歴が足りず国内で仕事が見付からない多くの人たちも、海外に職を求める傾向があります。海外で働く際は、エージェントなどが仕事をあっせんしてくれるので就職活動はあまりいらないそうです。この簡単さも、海外への出稼ぎの人気の理由に数えられるようです。
このような労働者達の仕事は主に、建設現場人員、清掃作業員、家政婦などの肉体労働がほとんどです。特に中東の国々はお給料が良いところが多いため人気がありますが、同時に危険な目に合うこともあるようです。
また、海外での労働は必ずしも環境が良いとは言えません。少ないお給料で長時間働かされたり住環境も問題があったりなど、きびしい状況も想定されます。対価を引き換えにリスクをとっているわけです。
家族に依存されるフィリピンの出稼ぎ労働者
ところが、フィリピンにいる家族は単純に「外国で働く=簡単にたくさん稼げる」というイメージを持つことも多いらしく、出稼ぎ労働者本人が現実とイメージのギャップに苦労することは珍しくないと聞きます。
自国より物価の高い国なのに、その国の標準より安い給料で自分の生活費と家族への仕送りをするのですから楽ではありません。中には「もっとお金を送ってくれ」とか「◯◯が必要だからいくら送ってくれ」などと要求がエスカレートすることがあるそうです。
また、仕送りのお金を資本に勝手に商売を始めてしまうケースもあります。ある現地の人によると「仕送りしている側ともらう側が合意していればいいと思いますが、そうでない場合は問題です。」ということでした。
また、外国で出稼ぎをしている家族がいると、自国にいる家族が働かなくなるケースもあるそうです。日本にもフィリピンからの働き手が多数来日していますが、彼らの中にも難しい状況に置かれている人たちがいるかもしれません。
香港で働く家政婦さんたち
香港の共働き家庭では家政婦さんを雇うのが一般的ということで、37万人の外国人家政婦さんが現地で働いているそうです。
一般的なスタイルとしては住み込みで、毎日の食事や子供の送り迎えなど家事全般を担います。勤務時間は、例えば朝6時~夜10時といった具合でかなりの長時間拘束になるようです。これで月収6万円くらいにしかならず、それでもフィリピンの2倍に稼げるということです。
彼らは給料のかなりの部分を母国に仕送りします。現地での生活が楽ではない上に、家族からはもっと送金するようにせがまれることが多々あるため、借金を重ねる労働者が後を絶たないそうです。
それだけ家族に「NO」という一言が言えないフィリピン人が多いということでしょうか?
法外な金利で貸し付け、担保としてパスポートを奪ってしまうヤミ金融業者もいるらしく、困窮した労働者が行方不明になったり自殺するケースも出ているといいます。
このような労働者たちのために、支援に動いているNGOも存在します。こういった団体は、お金について十分な知識のない労働者に対して「家族に言われるままに送金し続けると破綻につながる」との注意勧告もしています。
日本にも彼らのような労働者のための「駆け込み寺」のような場所が各地に必要なのではないかと思います。
フィリピンの地方から都会への出稼ぎもある
一方で、海外ではなくフィリピンの都会に出稼ぎに出る地方出身の人たちも沢山います。
彼らは仕事を得るために都会に出てくることを余儀なくされたわけですが、都会での生活に慣れるにつれ、独り暮らしを楽しむ気持ちの余裕が出ることもあるようです。もちろん「ホームシックでどうしようもない」というケースがあったりするので、一概には言えませんが…
私個人の印象ですが、同じ出稼ぎでも国内で適正なお給料の仕事についたほうが、案外幸せな人が多いかものしれません。貧しいほど学歴がネックになり、仕事の選択肢が限られ、ブラックな労働環境だと知りながら外国に行かなければ稼げないという状況があるからです。(もちろん高いスキルを武器に外国で働くフィリピン人もいます。)
フィリピンの教育制度が良い方向に向かうことを陰ながら願っています。
日本と外国人労働者
日本も人手不足解消で外国人労働者をたくさん受け入れることになりそうです。特に地方では技能実習生はすでに欠かせない存在になっている部分があります。
技能実習生に関しては、もともと外国人に日本の建設や農業の技術を学んでもらって、祖国発展のお手伝いをさせてもらうという趣旨があったようです。ところが一部では安い賃金で長時間働かせるような劣悪な環境が存在しているとの報道がされることがあります。
中には単純作業をほぼ休みなく朝から深夜までさせた上、夜間の時給が300円だった事例や、建設現場などで言葉が分らず孤立してしまったりなどの事例があるとされます。