昨今、日本でよく聞かれる言葉に「パワーハラスメント」があります。これは英語の言葉としては存在しないらしいです。
ただし、ネイティブの中にも「意味は伝わるので、使っても大丈夫」というような意見もあります。ネイティブのなかでも意見の分かれるところかもしれません。
日本の「パワーハラスメント」と同様の意味を、きちんとした英語で伝えたいなら「abuse of authority(power)」(権力・職権の乱用)や「power imbalance」(権限の不均衡)を使うと良いみたいです。
でも「パワーハラスメント」も逆輸入で、いつか英語になるなんてこともあるかも…?
ところで私がちょっと意外に思ったのが、フィリピン社会での上下関係が思ったより厳しいことでした。
日本の厳しさとはまた違うようですが、私はフィリピンに南国気質ですごく自由なイメージを持っていたので、びっくりしました。
一般的に、上下関係が厳しいほどパワーハラスメントが起こりがちだと思うので、今回はフィリピンのパワーハラスメント等について書いてみたいと思います。
結論から言うと、フィリピンにもパワーハラスメントはたくさん存在していると言えそうです。
職場
日本でも、パワーハラスメントが起こりがちな場所は職場だと思います。
自由な社風なら大丈夫ですが、フィリピンでも上司が厳しいと、やはり従うしかないことはあるようです。保守的な価値観の強い田舎の方から都会に出て働いている人たちもいるためか、上司に対して意見するのが難しいと感じている人たちは少なくありません。(クビになるかもしれない、と思うようです。)
またパワーハラスメントの被害者が感じがちなのが、「罪の意識」や「恥」なのだそう。被害者なのに、なぜか自分自身を責めてしまい、不当な扱いに対して、声を上げることができずに苦しむそうです。
学校
日本では「モンスターペアレント」が取り沙汰されていますが、フィリピンでは(昔の日本と同様)力を持っているのは、先生たちのようです。
特に、公立学校では「生徒は先生に従う」といった雰囲気らしいです。今は少ないそうですが、以前は手が出ることもあったようです。(ちなみに、私立の学校では、保護者が授業料を支払うため、パワーバランスが違ってきます。)
具体的な例は聞けなかったのですが、えこひいきは存在するそうなので、パワーハラスメントに似たような状況が起こりうる環境と言えそうです。
先生が威厳を持ち続けることのできる要因のひとつに、学校での態度が生徒の成績に大きく反映されるフィリピンの事情もあるかもしれない、と言う方もいました。
個人的には、先生にせよ、保護者にせよ、生徒にせよ、教育委員会せよ、権力の一点集中は好きじゃないです。
家庭
フィリピンにはキリスト教の価値観が浸透していて、親を敬うことが非常に大事とされます。口答えをあまり容認しない親もいるようです。親から「友達と出かけることも許されなかった」という人もいました。この親御さんは、学生のうちは、娘に彼氏が出来ないようにしたかったのかもしれません。
でも、キリスト教だけではフィリピンの上下関係を説明しきれない気がしています。キリスト教人口が多数派の国は世界中にあるからです。
ある現地の人によれば、「公共のセーフティネットが不足しているフィリピンでは、お金がないことへの危機感が強いので、人間関係に金銭的な要因がより大きな影響を与えるのではないか」ということでした。
そういえば、「素行の悪い父親に以前は何も言えなかったけど、就職してからは意見できるようになった」と言っていた人もいました。
もしかしたら、少し儒教やイスラム教の影響もあるかもしれません。いずれにしても、家庭内にも影響が及ぶフィリピンの上下関係は、様々な要素が合わさって出来たのではないかと思います。
警察
警察に関しては、フィリピン内でも色々と言われているようですが、私が聞いたお話を書いておきます。
お金持ちそうな被害者と、貧しそうな被害者とでは、警察の対応が違うことがあるそう。これは「袖の下」を期待することを表しているみたいです。こうなると、パワーハラスメントと言うより、差別や法律違反になりそうです。それと職権乱用ですね。残念ながら、これらは多かれ少なかれ世界中に存在するものです。
政治家
フィリピンは多くの人口を抱える、大きな国です。いくらドゥテルテ大統領が厳格に改革を進めても、やはりそう簡単に悪事を一掃することは難しい気がします。
選挙では、いわゆる「票を買う」という行為が珍しくはないそうです。選挙の前に、候補者側から「贈り物」的なものが贈られ、受け取ったらその候補者に投票するやり方です。でも、受け取ったのに投票しないとか、はじめから受け取り拒否するなどして、物事がこじれると、まれに投票者側には日本人には信じがたいような最悪のシナリオが待っていることもあるそうです。
受けとると不正だし、受け取らなくても怖い、という状況だとすれば、パワーハラスメントに近いような感じもあります。(度が過ぎていますが…)